続・政略結婚は純愛のように
「べつに謝ることはない。…とにかく、そんな顔をしていたのでは仕事にならないだろう。体調も良くないみたいだし、今日はもう…。」

「だ、大丈夫です。」

 由梨は勢いこんで言う。
 自分の都合だけで仕事を投げ出してしまったら、"惨めで弱い"というだけでなく、"無責任"にもなってしまう。
 それだけは嫌だった。

「主任が仰ったとおり、気にしても始まりませんから!」

 少し大きな声が出てしまった由梨に黒瀬はふっと笑った。

「…わかった。まぁ、無理はするな。…ここはしばらく使用中にしておいてやるから、その顔をなんとかしてからこい。」

そう言って部屋を出て行った。
 黒瀬が出て行ったドアを見つめて、由梨はミーティングルームの椅子に座った。
 そして長い長いため息をついた。
 まるで自分の中にもう一人の自分を飼っているような気分だった。
 弱くて惨めでいつも暗いところでうずくまって泣いていた自分が、自分の中にいつもいて、ふとした瞬間に頭をもたげて出てくるのだ。
 何がきっかけで彼女が目を覚ますのかはもうわかっていた。
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