続・政略結婚は純愛のように
 今井家という檻から連れだして外の世界へ連れてきてくれた加賀隆之という存在は由梨の全てだ。
 本来、由梨とは遥か遠いところにいるはずの彼が何かの弾みで自分から離れてしまうのではないかという不安がいつも心の中に渦巻いていた。
 由梨の実家である今井家が普通の家庭ではないことはわかっている。
 その中で育った弱くて惨めな自分はおそらくこれからも消えてはくれないだろう。
 どんなに違う環境にあっても人は全くの別人にはなれないのだから。
 黒瀬という第三者にその弱い自分を見られたことで少し冷静になれた。
 そうだ。
 企画課に来ると決めたときに隆之に言ったではないか。
 由梨に対する中傷などは想定内なのだ。
 由梨はゆっくりと深呼吸をして立ち上がった。
 今日は、急ぎではないが手がかかって厄介だから後回しでいいと言われたあの案件を片付けてしまおう。
 そうすれば、大会議室のことは気にならないはずだ。
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