続・政略結婚は純愛のように
コーヒーのいい香りがするお盆を、持って会議室に入ると一旦議論が止まった。
 緊迫した空気が少し緩む。
 ちょうどいいから少し休憩を入れようと隆之が声をかけて、メンバーが体を伸ばしたりトイレに立ったりする。
 その間に由梨はコーヒーを配りながら、初めに皆が使った空になったコップを回収してゆく。
 マリアと隆之のテーブルの分を回収しようとしたとき、マリアの香水の香りが強く香った。
 エキゾチックで奔放な、まるでマリア自身を表すようなその香りに由梨は思わず立ち止まる。
 揺るぎない美の女神だけがつけることを許される魅惑的な香り。
 真面目で地味な由梨とは正反対の…。
 かつての隆之は彼女のこのようなところに惹かれたのだろうか…。

(いけない…!私、また…。)

由梨は心の中で自分を叱咤する。
 油断すると、すぐにあの弱い自分が現れる。
 由梨は小さく首を振った。
 ここに長くいるべきではない。
 そして急いでマリアと隆之の前にもコーヒーを置いてその場を離れる。
 部屋を出る間際に、ありがとうと隆之に声をかけられた。
 また、泣きそうになった。
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