続・政略結婚は純愛のように
 正午の便で空港に着いたマリアを連れて会社へ戻った隆之は、エントランスに並ぶ社員を見て苦笑した。
 企画課はともかくそれ以外の課の社員までマリアを見ようと集まっている。
 大学から商社勤務時代を東京で過ごした隆之からしてみれば、芸能人などさほど珍しくはないが、他の多くの社員からしてみればそうではない。
 テレビでしか見られない人物を見ようと今か今かと待ち構えている。
 マリアは車内で困ったわと呟いた。

「私、今日はノリスの社長としてきたのよ。」

 そう言いながらも注目されることが大好きな彼女の頬は薔薇色に染まり、唇は笑みを湛えている。

「…まぁ、そう言わないでやってくれ。皆君を一目だけでも見たいんだろう。…美しい君を。」

この場で考えうる最善の言葉を口にして隆之は車を降りる。
 心地の良い風が隆之の頬をなぶった。
 その新鮮な空気を吸いながら隆之はエントランスに並ぶ社員を一瞥した。
 最前列に並ぶ企画課の列に由梨を見つけた。
 紺色のスーツを清楚に着こなし、あの柔らかい髪をさらさらとなびかせている。
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