続・政略結婚は純愛のように
 馬鹿馬鹿しい、と隆之は自嘲する。
 隆之の目と鼻の先で二人が何かするわけがないのに。
 いつもの冷静沈着な自分は一体どこへいったのか。
 こんな些細なことにすら嫉妬するなんて。
 …しかし考えてみれば、由梨のことに関しては初めからそうだった。
 長坂が彼女は仕事ができると報告してきたとき、蜂須賀にそろそろ次のステップを考えてみてはと進言されたとき、それでも隆之が彼女を秘書室から出さなかったのは、彼女のこのような姿を見たくなかったからなのだ。
 会社経営に私情を挟むのは御法度というけれど、この場合一番迷惑を被っているのは由梨だろう。
 彼女の初めての上司が黒瀬のような男だったらあるいは…。
 そんな感情を持て余しながら、会議の議題を聞き流していると、しばらくして、黒瀬が一人でミーティングルームから出てきた。
 ひとまず隆之は安堵して、意識を会議の方へと戻した。
 
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