続・政略結婚は純愛のように
 会議の有意義なものだったが議論が白熱し、少々長引いていた。
 そろそろ休憩を入れようと隆之が思ったちょうどその時、遠慮がちなノックとともにコーヒーの香りをさせて由梨が入ってきた。
 ベストタイミングだ。
 一瞬隆之は、彼女がまだ秘書室にいた頃に戻ったような気持ちになる。
 役員会議が長引いて皆が疲れ出した頃、いつも由梨がコーヒーを持って現れてそれを期に会議の流れがいい方向に変わっていく。
 もちろん長坂も同じようにタイミングよくブレイクを入れてくれるのだが、由梨の持つ柔らかな雰囲気がその場の緊迫したムードを和らげてくれる。
 由梨のこのコーヒーに、隆之は何度も助けられたのだ。
 そのあとに必ず他の役員から由梨をほしいと言われることには辟易としたが。

「おっ、越後屋の最中だ。うれしいなぁ。」

由梨の退出後、コーヒーをかき回していた陽二が声をあげた。
 コーヒーには一つずつ、この街の特産品である最中が添えてある。
 社員が製造元を訪問すると大抵自社製品を手土産にもらう。
 そう言ったものは皆が分けられるように大抵給湯室に保管されている。
 由梨が機転をきかせたのだろう。
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