続・政略結婚は純愛のように
 いったい彼女たちは由梨をどのように言ったのかと隆之が黒瀬に問いかけようとしたとき、隆之の携帯が震えた。
 陽二からだ。
 隆之が引き返して黒瀬と話し込んでいる間に、下に迎えの車が来たのだろう。
 黒瀬は言うだけは言ったというように、お疲れさまですと頭を下げて立ち去ろうとした。
 その背中を隆之は呼び止めた。

「待て、彼女は…由梨はなんて言われた?」

 情けないと思う。
 妻が…由梨がどのように傷つけられたのかすら知らないなんて。
 思わず懇願するような言葉が口をついて出る。
 黒瀬が振り返って、隆之を睨んだ。

「それは、貴方がご自身で由梨さんに確かめるべきでしょう。」

 隆之は目を見張る。
 この男は…まさか。
 それだけ言って黒瀬はもう一度頭を下げた。
 そして今度は振り返りもせずに足早に部屋を出ていった。
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