続・政略結婚は純愛のように

由梨は言い訳のようなことを呟いて立ち上がろうとしたが、大股に近づいてきた隆之に両肩をがっしりと掴まれて阻まれた。
 隆之の体重がベッドにかかりぎしりと鳴った。
 そのままじっと覗き込まれる。

「…泣いてたのか。」

図星を刺されて由梨の頭にかぁっと血が昇った。
 隆之が由梨の頬を親指で確認するようにたどる。
 由梨はそれを避けるように首を振った。
 彼はどうしてそんなことを言うのだろう。
 由梨にとっては酷い一日だったが、隆之にとってはごく普通の当たり前の日だったはずなのに。
 帰ってきてスーツのまま寝てしまったからといって泣いていたことまで見透かされてしまうなんて。
 けれど考えでみれば、社内のことで彼が知らないことなどないのかもしれない。
 人事部には社員のあらゆる情報が集められてくるという噂を聞いたことがある。
 由梨が隆之と結婚したことについて陰口を叩く者がいることなど、お見通しなのだろう。
 そして葉山マリアの来社により、それがより酷くなるであろうことも。
 惨めだと思った。
 どうやっても隆之に並べない自分、それを周りに誹られて泣くことしかできない自分。
 それだけでも充分恥ずかしくて惨めなのに、よりによってそれを隆之に知られてしまうなんて。
 ましてや彼はさっきまであのエキゾチックな香りをさせた強くて魅力的なマリアと一緒だったのだ。
 ぐちゃぐちゃに丸めた紙のように惨めな由梨の姿を見てどう思うかなど想像にあまりある。
 がっかりして、やっぱりマリアの方が良かったと思っているに違いない。
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