続・政略結婚は純愛のように
「…何も…泣いてなんかいないです。」
由梨は精一杯の強がりを口にして隆之の腕から逃れようと試みる。
何があったのか見透かされていたとしても泣いて彼に訴えてすがるような真似だけはしたくない。
けれど隆之は離してはくれなかった。
「…何か辛いことがあったんだろう?言ってくれ。」
隆之はいつも堂々としていて、相手の目をじっと見つめて話をする。
それが今は辛かった。
由梨の中の醜い心が全部見透かされてしまう。そんな気がして。
由梨はそんな隆之の視線からひたすら逃れるように首を振る。
「何も…何もありません。」
「由梨、言ってくれ。お願いだ。」
暴れる由梨を押さえつける隆之のスーツからいつもの甘い香りに混じって、ほのかにエキゾチックな香りがした。
マリアの香りだ。
頭で思うより早く由梨の本能はそれを拒否した。