続・政略結婚は純愛のように
「では、誰にだったら言えるんだ?」

低い、怒りを帯びた隆之の声に由梨はびくりと肩を震わせた。
 青い、二つの怒りが由梨を見つめている。

「…俺には言えないことを、誰に言うんだ?」

狼が、獲物を仕留める直前のような格好で由梨を囲い込んだ隆之が、僅かに瞳を細めて由梨に問う。

「由梨、言うんだ。」

隆之からの問いかけの意味がわからないまま由梨は首をかすかに振る。
 頭に昇った血が半分くらい下りたようだ。
 自分が吐いた酷い言葉が隆之の怒りに火をつけたのだろう。
 けれど、"誰"とはいったい…。

「…黒瀬か。」

隆之が呟く。
 それは由梨に尋ねたようでもあり、ただ自ら確認したようでもあった。

「え…?黒瀬主任…?」

思いもしなかった、あまりにもこの場に不似合いな名前に由梨が戸惑いの声を上げたとき、隆之の手が由梨の顎に添えられた。
 そして有無を言わさず唇を塞がれた。

「んっ…!」

 不意に告げられた場違いな名前、けれど明らかにそれに対する怒りをあらわにした隆之が奪い尽くすような口づけでもって由梨を圧倒してゆく。

「ん、ん、ん…。」

 隆之の怒りが唇から直接伝わってくるようで由梨は身体を震わせた。
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