君とわかれるその日まで、溢れるほどの愛を描こう
二人と別れて数分、いつものように家の扉を開けた瞬間、得体の知れない "嫌な何か" が俺の全身を包み込む。
・・・鳥肌が立った。
いつもは無いはずの靴が、そこにある。
・・・誰だよ。
人の家に勝手に入っているのは。
直感で逃げ出したい衝動に駆られたけれど、足が動くより先に俺に届いた低い声。
「優人」
「・・・誰?」
自分の家の玄関で警戒心を剥き出しにして、すぐ目の前のドアを睨みつける。
手が震える。
心臓がうるさい。
俺の不安なんかガン無視で開いたそのドアの向こうから、背の高い男性が姿を現した。
聞き慣れない低い声で、俺を見つめて名前を呼んだ。
背筋が凍った。
もはや一歩も動くことは出来ない。
・・・俺はこの人を知っている。
知っているはずだけど、知っていたくはなかった。
とうの昔に忘れたはずだった。
記憶を数年ほど遡れば、頭の片隅に浮かんでくるこの男性の姿。
「優人。俺を忘れたのか?」
・・・この人は、俺の父親だ。