君とわかれるその日まで、溢れるほどの愛を描こう


「はなしてっ、やだ、はなせっっ」



ひと通りの物を預かり、一礼してドアを閉めると、俺は真っ先に部屋に戻った。


そして "ある物" を持ち、捕獲されたその子の元へ向かう。



・・・人を恐れることはない。


きっと、この世に溢れるたくさんの愛に触れることが出来る。



だってほら・・・君のその手は、寂しそうに空を掴むから。



「ねぇ、ぼくと ともだちになろう」

「・・・へ・・・」

「ぼくと てをつなごう」



子どもの心に受けいられやすい声の出し方は、四年通いつめた大学で教わった。


子どもの心の掴み方は、尊敬する教諭に教わった。



バタバタともがく少女の前に、少し廃れた薄紫色のうさぎを。


ふわふわの腕を差し出せば、少女はそれをそっと握った。



「・・・へんないろ」

「え〜、ひどいなぁ〜」



自分を受け入れてくれる誰かが居ることを、全ての子どもに知ってほしい。


自分を愛してくれる誰かが居ることを、身をもって感じてほしい。



そんな思いを胸に、あの日、俺は迷うことなく紙に書いたんだ。


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