scarlet


「キスしてたの、見たの
カラオケでトイレから出てきた時に
龍のこと見つけてついて行ったらっ」


思い出して、涙目になる
最近どんどん感情が不安定になってる気がする


「あぁ、あの日か……

ごめん良い言い訳が見つかんない。
美桜と喧嘩した次の日でイライラしてて
俺を見兼ねた楓たちが連れて行ってくれて、
女の子もいて酒飲んでたのもあるけど、

キス、した」


ごめんね、と謝る龍
何も龍が謝る必要なんかない


「私には、関係ないことだし
責める筋合いなんかないもんっ」


「関係ないとか寂しいこと言わないで」


「別に、いいんだけどほんとに」


「じゃあなんで泣いてんの」

ふわっ

そう言って気がついた時には
腕を引っ張られて乗っかるように
抱きしめられていて


「龍、はなして」


「やだ」


「龍離れしなきゃ、ダメだって気付いたの」


「俺から、離れてくの?」


「っ、」


熱があるせいで目が潤んでて縋るように
私を見つめる龍が可愛くてたまらない


「そうなんだけど、!
そうじゃない、みたいな…」


甘えすぎてるから、と小さく言うと


「俺から離れないで、もっと甘えてよ」


「でも、龍は私だけのものじゃないでしょう?」


「ずるいなあ、その返事は。
俺が美桜に手出せないことは分かってるでしょ」


そう言ってデコピンしてくる龍
分かってる。私たちが結ばれることはないってこと

だけどどうしようもなくあの時
触れないで欲しいと思った。
龍を取られるのが嫌だと思った。


私だけのものになってほしいと思ってしまった


「意気地無し、」


「ふはっ、美桜だってほんとは
聖夜を見捨てること、できないでしょ?
それに、キスしたのを見たのがほかの人でも
きっと美桜は泣いてるよ」


龍の中の私は美化されて映っているみたい

だけどそんなこと言ったら
きっと龍は困るでしょ?


「ねぇ、龍。私は物分かりがいい女でも
賢い女でもないよ。演じてるだけなの」


「…知ってるよ。だけど美桜はちゃんと
演じきれる女でしょ。俺は賢く立ち振る舞える女が好きだよ。」


龍は残酷な人だと思う。龍に気持ちが傾いてることきっと分かってるのに、胸には飛び込ませてくれないの。私に優しくするくせ、私よりも聖夜が大事なの。


「そうしなきゃ、可愛がってもらえないでしょう」


「嘘だよ、俺はどんな美桜でも大事な
仲間だと思ってるよ。

てか、こないだ怒ってたのはなんだったの?」


「ただの嫉妬よ。聖夜の方が大事みたいで
羨ましくなっちゃったのよみんなの関係性が」


私はまだ伝える勇気は持ってない。
龍への気持ちは消すのが一番だと思った。
私が伝えたところで報われない、誰も。

龍は困っちゃうだろうし、聖夜のプライドが
それを許さないと思う。


「…仲間、ね」

龍にこの声が届いていたのかはわからない
だけど私のせめてもの抵抗だ。


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