scarlet


私の恋が、報われない代わりに
誰も傷つかないのなら
それでいいと思った。


きっと今は苦しくても、何年、何十年って
経てばきっとあの時はこんなこともあったな、
なんて笑って話せるようになってると思う


「お見舞い、しに来たのよね私」


「仲直り出来たから、なんでもいいよ」


そうやって、ふわりと微笑む龍を
見るだけでまた胸が疼く

こんな気持ちのまま倉庫には顔を出せない


「私ね、当分倉庫には顔出せないの。
みんなに伝えててくれる…?」


彼はそれに短く返事してくれて。
きっと彼のことだからお見通しなんだろう


聖夜が私を必要としてくれてるのなら
尚更、今は倉庫に行けない。


こんな中途半端な気持ちのまま彼の傍に
居るのは卑怯だし、失礼だ。


「美桜、」


「あ、りんご食べる?
他にも食べるのあるわよ」


「ねえ」


「ゼリーもあるの。好きでしょ?」


「聞けって」


何故か聞く耳を持たない私の手首を
少し強引に掴む龍


「帰っていいよ」


「え?」


「無理してるの、バレバレ
適当に冷蔵庫に入れててくれる?」


「う、うん」


怒ってるわけじゃないからね、と
甘い笑顔を向けるから
本当に怒ってるわけじゃなさそうだけど


「、?どうした何か言いたげな顔してる」


「私に気を使ってくれてるのは、分かってるの
だけど熱のときってなんだか寂しくならない?」


「え?」


「弱ってる時ぐらい、甘えてほしいの」


しばらく会えなくなるのは自分から
距離を置くにしても寂しい。
まだ熱が下がったわけじゃないし
できることはしてあげたい


「うん、じゃあお言葉に甘えて」


「良かった、また顔赤くなってきてる
ちゃんと寝てないと」


そう言って布団をかけてあげようとしたら


「ごめん」


そう切なく呟いたかと思うと
私の腕を引いていつの間にか私まで
ベッドに入る始末


「分かってる。いい加減なことしてるのも
だけど今だけ、甘えててもいい?」


細い腕で苦しくなるぐらい強く
抱き締める龍は少し息が上がっていて


「、龍」


「どうしようもない俺のこと、
嫌ってくれて構わないから」


初めて聞く龍の切なげな声に
私はどうすることも出来なかった



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