花はいつなんどきも美しく
「近付くな、酔っ払い」


今は拒絶されることがどうにも気に入らなくて、私はその手のひらを舐めた。
真司はものすごい勢いで手を離した。


「なにすんだよ!」
「はいはい、真ちゃんも落ち着いて。いつものでいい?」


私が言い返すよりも先に、ママが間に入った。
舌を出して真司を挑発すると、真司は舌打ちをし、私との間に一つ席を開けた。


「もう、どうしちゃったの?聡美ちゃん」


真司にビールと焼き鳥を渡したあと、ママは真司がわざと開けた席に座った。


その優しい声とアルコールのせいで、簡単に涙腺は狂った。


「……私……男に負けた……」
「へ?」


ママは気の抜けたような声を出した。
そんなに難しいことは言っていないのに、と腹が立つ。


「……だから!男に、取られたの!」


私が泣き叫ぶと、店内に再び沈黙が訪れた。


「ちょ、ちょっと待って……?聡美ちゃんの恋人は、異性よね……?」


ママは混乱しているようだ。


お酒のせいか、どうしてそんな当たり前のことを聞くのだろうと思ったが、普通恋愛で男に捨てられたとなれば、ほかの女に取られたと言うところ。


混乱して当然だった。


だがその判断ができない今、私はさらに苛立っていた。


「そうだよ!」


カバンの中に手を突っ込み、スマホを探し出すと、そこから彼氏だった男の写真を見せつける。


「小田雅史(まさふみ)、二十六歳!正真正銘の男!」


どうやら近付けすぎたらしく、ママは少しだけ背中を反った。


「じゃあ、男に取られたっていうのはどういうこと?」
「雅史の家に行ったら、知らない男とイチャイチャしてたの。そしたら、こいつと付き合うから別れろって」
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