花はいつなんどきも美しく



ドアを開ける勇気がなかった。


デートはドタキャンして。
ほぼ一日待たせて。


合わせる顔がない。


メールで行けなくなったって伝えて、帰ろう。
それがいい。


そう思ったのに、ドアが開いた。


「……聡美ちゃん、何してるの?」
「ゆ、悠之介……」


どうやら店の前にいたことがバレていたらしい。


「えっと……その……今日、ごめんね。ドタキャンして」


笑顔を作って言うけど、気まずさがないわけじゃない。
逃げたい気持ちでいっぱいだ。


「まったく、まだそんなこと気にしてたの?いいから、中に入って」


言われて店の中に入る。
今日は休みの予定だったから、誰もいない。


「聡美ちゃん、こっち」


そしていつもの席に座ろうとすると、悠之介は店の奥で手招きした。


よくわからないまま悠之介のところに行く。
悠之介がドアを開けると、階段があった。


「俺の部屋に行こう」
「え……」


店の二階が悠之介の部屋だということは知っていた。
あの日、酔った私がいたのは悠之介の部屋で、ここから会社に行ったから。


しかしこのタイミングで誘われるとは思っていなかった。


「嫌?」


……嫌って言わせる気ないくせに。


「……そうは言ってない」
< 64 / 79 >

この作品をシェア

pagetop