花はいつなんどきも美しく
名前を呼ぶと、悠之介は私の頭に手を置いた。


「大丈夫、負けないから」


それでも不安だった。


悠之介の勝ちが見えていても、それは真司に悪い気がするし。
こんな勝負に乗るなんて、私を誰かに奪われてもいいと言われているような気がするし。


すると、真司は悠之介の手首を掴んだ。


「俺のこと忘れるの、やめてくれる?」
「ごめんごめん。じゃあ、勝負開始しようか」


子供みたいなわがままを言う真司と、大人の対応をする悠之介……
なんて言ったら、怒られるだろうなあ。


「……聡美は渡さないから」


真司はそう言うと、悠之介の手を放した。
そして人混みに姿を消した。


「勝手だなあ……」
「まあまあ。真ちゃんの気持ちを考えると、これくらいのことはね」


だからって、デート中なのに勝負なんて、と思ってしまう私も子供だろうか。


「それじゃ、聡美ちゃんはアイスでも食べて待ってて?」
「一緒に行ったらダメなの?」
「そんなことできないよ。俺だけ、聡美ちゃんの反応見ながら選ぶのは、不公平でしょ?」


そう言われると言い返せない。


デートの邪魔して……恨むぞ、真司。


「楽しみにしてて」


悠之介は私を置いて行ってしまった。


……大人しくアイス食べに行こう。
< 70 / 79 >

この作品をシェア

pagetop