冒険者の王子は 旅と恋する

今まで、
どんなに、リンキー・ティ教団が
第二王子に接触を試みているらしい、とか

幼いころ僕の命石を安定させた
命の恩人の少女が不可解だとか、

そんなことを思っても、

なんだか、
布一枚、紙一枚隔てたような、

なぜか、現実味のない
僕には関係ない。そう思っていたのだ。

力なく、微笑まれた
フランチェスコ王子。
王子の差し出されて、
空をつかんだ手・・・

あの時、しっかり握っておくべきであったのか。



あぁ、僕は、
仕事だからと言ってここに立つべきではないのだ。

彼を、守るために
立っているのだ。


そう 思ったとき
胸元で、がちり、と
音がした気がした。


騎士フィロスの・・・命石に
小さな亀裂が入ったのだ。
それとともに、
「なにか」が解けるのがわかった。



・・・・あぁ。

あぁ、そうなのか。

騎士フィロスは一瞬にして
理解した。

僕にかかっていたのは思考低下の類の術であろう。

大事なことは考えない。

通常であれば、
リンキー・ティ教団の接触があったとか
その不可解さを
騎士団に報告なり、
実家に報告なり、
兄であり同僚であり、相談するべきである。

それを、全くしなかった。
第二王子の護衛騎士になってからは
実家にも寄り付かず
ただただ、業務をこなしていたのだ。




ひびの入った命石。
そこから静かに、
自分自身だけがわかる。精霊の力がゆっくり抜けていく。



『もう、結界が払われちゃったわ。
 あの子がが気が付かなければよかったのに』
ぼんやりとした気配であったが
声は確実に 騎士フィロスの耳に入ってきた。

『馬鹿ね。もう 石には住めないわ。』
『せっかく、あなたを順調に操れてたのに。』
『ミューちゃんの為に
 いろいろ、魔石を王宮に仕掛けるのにちょうどよかったのに』
『あの光の子の魔力を近くでいっぱい吸えたからいいけど』

精霊はおしゃべりをしながら、
去って行った。

抜けた。というのはすぐに分かった。

どん。と魔力が
石に引きずられた感覚だ。


あぁ、そうなのか勝手に『閉じ込められた』と思っていた精霊は
あの、女の手先だったのか。
かってに、石から出入りをしてたのか。
この思考を止める魔法も・・・精霊の術か。


第二王子周辺でおこっていた
事件や、未遂事件は・・・・・ほとんど僕が原因なのか。

顔をうっすら思い出す
あの リンキー・ティ教団の『巫女』だといわれている
あの女・・・あの女の名前さえ今まで気にならなかった。
精霊が去り際に行った「ミューちゃん」という言葉で初めて知ったのだ。

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