さよなら、片想い
 このあと遊んで一泊して帰ることにし、まずは私の服を買いにいった。パンプスとクラッチバッグに合わせてワンピースを選び、店でタグを切ってもらった。


「映画みたい」

「そう?」

「憧れてたわけじゃないけど。慣れないことしてるって、自覚がある」

 披露宴で着ていたドレスをショップの紙袋に押し込んで、有名なパンケーキの店の列に並んだ。五センチのヒールを履いているぶん、岸さんの顔がいつもより近い。

「俺、エスコートできてる?」

「できてる、できてる」

 現在進行形のデート確認とか、甘いなあと思う。


 映画を観た。お酒を飲んだ。飲みながら旅行の話を詰めた。海にするか山にするかからはじまり、海なんか行ってなにするんだとか、山は虫がいるとか、虫なんか街にもいるとか、野営じゃないからだいじょうぶだとか。アルコールも手伝ってくだらない議論を重ねた。
 決め手に欠けたので、店を出て大型書店を覗いた。ガイドブックの並びを見たら花火観覧にしようとすんなり決まった。どうせなら浴衣を着たい。むしろ岸さんの浴衣姿が見たいと言うと嫌そうな顔をされた。

「暑そう」

「だったら私も着ない。それでもいい?」

「よくない」

 手を繋いでホテルに帰り、順番にシャワーを浴びた。冷たい水がおいしくて、ペットボトル一本を飲み干す勢いだった。背もたれのしっかりした椅子に座った。
 岸さんはすぐそばで旅行雑誌を広げている。
< 142 / 170 >

この作品をシェア

pagetop