さよなら、片想い
 穂佳ちゃんの軽い調子につられて、ついそちらを見てしまった。
 岸さんはすぐに見つかった。浴衣姿だった。仕事のあとで着替えたのだろう。穂佳ちゃんがたやすく見つけたのも無理はない。
 ほぼ全員が浴衣を身につけている、目立つ団体だった。
 納涼会と聞いてはいたものの、そこまでするとは思っていなかった。

 約束を破られたようなショックを私は受けていた。岸さんと花火を見にいけたら、と話していたはずだ。そのときにはふたりとも浴衣を着るものだと思いこんでいたから、事前の断りもなく先を越されたようで悔しかった。
 納涼会ご一行は飲み物が揃ったようで、盛大な乾杯の声がこちらまで響いた。

 穂佳ちゃんの言う『隣の女』というのはすぐにわかった。言わんとしていることも。
 岸さんを見つめる横顔が、お慕いしていますと言っていた。遠目にもわかるって、余程のこと。


「隣のあの人、絶対、岸さんのこと好きだよね」

「横恋慕ってあーいうのを言うんだね。岸さんもはっきりすればいいのに!」

 年は私より少し上だろうか。岸さんより上というのはなさそう。白い浴衣が似合っている。
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