さよなら、片想い
「そんなしょっちゅう、前の彼女に再会するのだと想像すると、私とっても嫌な気分になるんですが。会ってるかもしれないって思うだけで気持ちが沈むんですが。九人でしょう? どうすればいいの? 私、病気?」

 岸さんの半袖の裾を掴んでいた。
 病気じゃない、と岸さんは答えた。今みたいに言ってくれていい、とも。会えるなら会う。一緒にいたいならそうする。抱きしめてほしいなら抱きしめる。望むようにすればいい、と。
 心にメモでもするように、言われたことを反芻する。


「実際、今はどう? この部屋にいる今は」

「穏やかです。たまに、どきどきもします」

「そう」

 口づけをひとつしてから、岸さんはぽろっとこんなことを言った。

「俺は君がそこまで嫉妬してくれるのが、正直嬉しい」

「はあ!?」

「なんとも思っていなかったら、そこまで気にしない。とはいえ君が不安がるのを喜んでばかりもいられないから、もしものときにはまた枝豆写真を見せて牽制するよ」

 私は扱いに困る感情にそれは嫉妬だと名をつけられて、言葉を失っていた。
 それに、あの写真にそこまでの効果を期待できない。むしろ、こんな頭の弱そうな子が相手なら勝てると思われそうだ。

 そこに岸さんはさらに驚きをもたらした。

「正直ついでにもうひとつ。結衣ちゃん、今度の引っ越し先で一緒に住まないか」
< 160 / 170 >

この作品をシェア

pagetop