さよなら、片想い
 考えていたのだという。ここは単身用物件だからすぐには一緒に暮らせない。けれどもいつか暮らせたら、と。暮らすつもりでいるのは、ありなのではないかと。
 同居したら内緒で着物を拵えて贈るのはできなくなる。やるなら今のうちだ。唐突に思えたかもしれないけれど、そういう経緯だった。


「住みたいです。一緒に」

 くよくよと悩んでばかりいた頭が、別のことを考えはじめる。そうしようと思わなくても脳細胞が勝手に、動きだす。

「でも、私も時間が欲しい」

「なら、ちょうどいい」

 着物の製作期間はおおよそわかる。岸さんの着物ができあがるまではお互いのことに専念するってどうだろう。
 たとえば住宅情報誌に載っていた車の免許取得。たとえば料理教室に通うこと。岸さんの着物をひとりで着られるように、着つけを習うのだっていい。

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