さよなら、片想い
「あの人、あんたとの将来を考えているよ。ちゃんと考えないとダメよ」

 一緒に住もうと言われていることを、私はまだ両親には言っていなかった。けれどもなんとなく、母にはそういった方向性は伝わっているようだ。

「そうだね。ちゃんと考える。考えるからさ、今は一緒に見てくれないかな。お母さん、着物見るの好きでしょ?」

 私は静かに言った。

「お母さんの帯と合わせたらどうかって提案してくれたの、岸さんなんだ」

 そのあと岸さんのいる和室に戻り、母を加えた三人で帯と訪問着を見比べて談笑した。
 思いつきで着物を作れるのは独り身のうちだけ、という岸さんの発言に母はいやに深く頷いていた。



 以来、次はいつ岸さんのところへ行くのかと母が気にするようになった。
 これを持っていきなさいと自家製の漬け物だの果物だのを預けられ、もう親戚づきあいがはじまっているかのようで苦笑いするしかない。

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