さよなら、片想い
「というわけで、本日の手土産は母のお手製アップルパイです」

「いつもごちそうさまですって言っておいて」

「岸さんに食べさせたくてならないみたいよ」

 手分けをして野菜を刻み、挽き肉をこねる。今夜はハンバーグだ。これからの共同生活を考えて、岸さんの部屋で自炊をするようになった。
 仕事で遅くなるときは早く帰れる人が準備をする。終業時刻が早く、且つバイクが使えるぶん、岸さんのほうがいつも到着が早かった。


「来週は残業多いんだけど、どうする?」

 着物制作で会えなかった時間を取り戻す勢いで、週末を待たずに会っていた。このリズムを崩したくない気もする。

「私、先に来てご飯作っててもいい?」

 作って待ってる、と言いたいところだけれど、できあがるまえに岸さんが帰ってきそうだ。
 わかった、と岸さんは頷いた。

「次の部屋に越すまでの短い期間だけど。持ってて」

 この部屋の合い鍵をくれた。
キーホルダーが食事時の話題になった。鞄のなかで見つけやすく、かさばらず、軽くて壊れにくいもの。近々買いにいこうと思っている。
 岸さんが使っている革製の平たいキーホルダーはこのマンションに移り住んだときに買ったもので、長いつきあいだという。

「キーホルダー探すの、俺も行くよ。よさそうなのがあったら買い替えたいし」

 素知らぬ顔で私も頷く。

「いいのを見つけようね」


 これというものに出会えたら、プレゼントさせてもらおう。そう心に決め、岸さんに悟られないようにアップルパイのための紅茶を淹れにいった。



— さよなら、片想い  番外編・実家  了 —


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