さよなら、片想い
 どうにかエレベーターに乗らずに済んだ私は、トイレの個室に入るなりバッグからスマホを取り出した。
 メッセージアプリを立ちあげて通話を選ぶ。手が震えている。繋がった。

「岸さん、助けて」



 まさか女子トイレまで入ってこないとは思うけど、それでも岸さんが駆けつけるまで気が気ではなかった。
 もういいとスマホ越しに言われて出ていく。
 そこには岸さんがいるだけで、猫山さんの姿はなかった。


 岸さんは隣のコンビニでペットボトルの水と缶コーヒーを買った。
 そうして差し出されたペットボトルを私、受け取ったはいいけど、蓋が回せなかった。手に力が入らない。

 見かねた岸さんが自分のコーヒーを私に預け、ペットボトルを開けてくれた。


「世話のかかる」

 飲めるだけの水を飲んだ。
 コンビニの駐車場は寒かったけれど、店の明かりが届いていた。いつもの夜の明かりと変わらなくて安心する。

 ホテルのなかにいるよりずっとよかった。
 靴裏に伝わるふわふわした絨毯の質感を思いだし、ぶるっと震えがきた。

「寒い?」

「そんなでもないです」

「俺は寒い」

 今からそんなじゃあ冬本番は大変ですね、と言うのを我慢した。
 誰のせいでこうなったかというと、私のせいだ。

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