さよなら、片想い
「このまえはプリンくれたけど。基本、なんとなく冷たいよね」
「しゃべらないしね。冗談通じるのかな、あの人」
あまりにも集中攻撃されていたから、擁護したくなった。
「結構おもしろいこと言いますよ。『俺のバイクの後ろに乗ったのは君と新巻鮭だけだ』って言われましたもん」
新巻鮭というのは、年末に会社から配給される尾頭付きの生鮭のことだ。
一人に一匹ずつ。夫婦で勤めていると二匹もらえる。
社員とその家族がよいお正月を迎えられるようにという、社長からの心尽くしの品だった。
その鮭の入った長い箱をあの岸さんがバイクにくくりつけて持ち帰ったというのだから、絵的には笑える構図だった。
バイクの色が黒っぽいから、鮭をくわえた熊の置物みたい。
かくいう私もバス通勤なので、なるべく暖房の当たりにくい場所で鮭を縦になるように持って、帰ったっけ。
あれは重たかったな。
「結衣ちゃん、乗せてもらったんだ」
「結衣ちゃんしか乗せたことないって意味? それって……え? そうなの?」
「ふたり、つきあってるの?」
おもしろい話をしたつもりだったのに誰にもウケていなかった。
それどころか、違うポイントに過剰反応された。