さよなら、片想い
「あの、ちょっといいですか」

 終業チャイムが鳴った直後、通りかかった岸さんをつかまえてこぼした。
 洗い場に手伝いに行っていること、その期間が一ヶ月を越えていることやヒサコさんの突然の異動について。


「私の手描きは下手ですか? 面と向かって言わないだけで、実は戦力になれてなかったのかな、って」

「いろいろと混同しているようだけど」
 と、前置きをしてから岸さんは言った。
「人件費の観点からして、正社員をパート業務に配置転換するとは考えにくい」

 言われてみれば、と我に返る。至極まともなことを言われた気がする。

「君は下手じゃないと言えば安心できるのか」
「それは……」

 安心、できるかもしれない。
 でも、洗い場での業務がずるずると続けばまた不安になりそうだ。


 岸さんは私に出身大学名を聞くと、俺もそこ出身だと言った。

「きちんと勉強してきた人間が実地を踏んでいるんだから、戦力だろ。戦力として、今は振られた仕事をやるしかないんじゃ?」

 いつまで続くか気になるのなら上司に直接聞けばいいだろうし、とも言った。

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