さよなら、片想い
「あ、はい」

 やめていいものか躊躇したけれど、岸さんがそう言うなら続ける。
 背中のリュックからハンドクリームを取り、蓋を開けようとしてーー思いついたことがあった。
 自分のマフラーを外して岸さんの首に巻こうとした。


「いいよ。俺は」

 岸さん、思ったより背が高かった。私は背伸びをする羽目になる。


「私のほうが髪が長いから。それに岸さんのいるほうが風上だし」

 観念したのか岸さんは僅かに屈んでくれた。
 思うように巻けたし、岸さんがおとなしく巻かれてくれたしで、私は気分がよかった。
 首筋が寒くなったのも気にならない。

 岸さんの手は骨張っていて大きかった。かさついていた。
 両手で大事に覆うようにしてクリームを擦りこむ。

 途中で岸さんの視線に気づき、そそくさと下を向いた。急に恥ずかしくなってきた。


「終わり!」 

 後ろに退いて間合いを取る。

 自分の手を代わる代わる見た岸さんは、
「悪くない」
と言った。それからおもむろにマフラーを外すと、
「じゃあ、これも返すよ。帰ろう」
 私の首に巻きはじめた。

 されてみてわかる。
 これは、どきどきする。

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