さよなら、片想い
「そう警戒しなくていいから」

 岸さんは言う。

「今、名取さんは弱っているし。そこにつけいるようなマネしなくても、アピールできるから」

 マフラーの端を私に手渡すと、岸さんは駐輪場へ向かおうとする。

「しっかり落ちこんで、ちゃんと立ちなおって」
 

 なんだそれは。どういうことだこら。
 無性にむかむかしてきた。
 僕いつでも口説きおとせます、みたいなやつ。


「私は!」

 周りに人がいないのをいいことに、大声を出した。
 岸さんの足が止まる。
 こちらに向き直るのを確認すると、続けて言った。

「私は岸さんといたら吹っきれると思うんだけど!?」

 声に出してみてはっきりした。
 私は岸さんといると心が動く。
 もうごまかしようがない事実だった。

「とりあえず一緒にいてみる、ってのはどうでしょう!」

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