さよなら、片想い
「礼なんかいらない。本当に。俺がしたくてそうしているだけだから」
「そんな甘えっぱなしにもいかないです」
そのとき岸さんの低い声が聞こえた。甘えろよ、と言われた気がして仰ぎ見ると、
「甘えていいから。俺は君といたいだけだ」
岸さんも私を見ていた。
今が朝じゃなかったら、会社まで数十メートルじゃなかったら、これから仕事じゃなかったら、私はきっとふざけたふりをしてでも岸さんに抱きついていたと思う。
会社の人の目もあり、その話は終わりになったけれど、私にとってはむしろはじまりのように響いて残った。
全体朝礼では後ろ姿を目で追ってしまうし、社内放送で岸さんの呼びだしがあっただけでどこにいるのかなと考えている。
食堂でのランチもそう。偶然近い席に岸さんに座られただけで急にそわそわする。結衣ちゃんという単語が耳に飛び込んできて、一緒に食べていた穂佳ちゃんのほうを向いた。
「ごめん、なんの話してたっけ?」
「だよね。聞いてなさそうな顔してた」
「胃袋に血の巡りが行っちゃって頭脳が手薄になってたわ」
「全力だね」
「そんな甘えっぱなしにもいかないです」
そのとき岸さんの低い声が聞こえた。甘えろよ、と言われた気がして仰ぎ見ると、
「甘えていいから。俺は君といたいだけだ」
岸さんも私を見ていた。
今が朝じゃなかったら、会社まで数十メートルじゃなかったら、これから仕事じゃなかったら、私はきっとふざけたふりをしてでも岸さんに抱きついていたと思う。
会社の人の目もあり、その話は終わりになったけれど、私にとってはむしろはじまりのように響いて残った。
全体朝礼では後ろ姿を目で追ってしまうし、社内放送で岸さんの呼びだしがあっただけでどこにいるのかなと考えている。
食堂でのランチもそう。偶然近い席に岸さんに座られただけで急にそわそわする。結衣ちゃんという単語が耳に飛び込んできて、一緒に食べていた穂佳ちゃんのほうを向いた。
「ごめん、なんの話してたっけ?」
「だよね。聞いてなさそうな顔してた」
「胃袋に血の巡りが行っちゃって頭脳が手薄になってたわ」
「全力だね」