さよなら、片想い
「それ聞いて思い出した。つい最近、岸さんがそれをやられてたわ」

 岸さんが、と呟く私を見て、知らないのかと穂佳ちゃんは前のめりになって話を続けた。

「今、あの人、同棲してるとか通い妻がいるとか噂されているんだ。それっぽい匂いがするものを部長が見たらしくてね。だからってこんな場所で言うことないよねえ、仮にも部長が。井戸端会議好きのおばちゃんならともかく、デリカシーなさすぎ。って、このまえ私が給湯室で言おうとしたのもこの件なんだけどね」

「それで、岸さんはなんて?」

「全然相手にしてなかったみたい。想像できて笑える。あ、私は居合わせなかったんだけど」

 私は笑えなかった。

「部長はなにを見たんだろう。バイクに誰か乗せてたとか」
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