さよなら、片想い
「出張のときになにかあったみたいよ。私も気づけたらよかったんだけどね。部課長と昼も夜も一緒っていうのが数日続くの、気が滅入るから、できるだけ距離置いてたんだよね」

 そうなるよね、と無難に返しながらも私は気が気ではなかった。
 岸さんと私が一緒にいるところを目撃されたというのならわかる。でも出張中の出来事ならば、私は無関係になる。


 私じゃない誰かが岸さんのそばにいるーー。

 それが本当なら、私に向けられていた岸さんの言葉も態度もまるで意味が違ってくる。
 優しかったのは、恋に傷ついた私を慰めていただけで。
 連れ出してくれたのは、決定的な片想いを忘れて元気になれるよう見守っていただけで。
 
 すぐに本人に問いただしたかったけれど、昼休みは残りわずかだった。
 スマホが震え、新着メッセージが届いた。宏臣からで、相談したいから今夜会えないかというものだった。そちらに返信をし、次に岸さんにもメッセージを送った。
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