さよなら、片想い
 待ち合わせの居酒屋で宏臣はハイペースでお酒を飲んだ。
 結婚相手の父親から反対された、と言う。

「反対って……別居を?」

「結婚自体を」

「それはまた……かける言葉が見つからないな。仲間内で一番に結婚を決めると、そういうことも起こり得るんだね」

 参考になる前例がないと言外に伝え、私もノンアルコールカクテルを一口飲む。
 お酒にしなかったのはうっかりした発言をしないようにするためだ。ふたりきりじゃなければ飲んでいた。

 宏臣の結婚相手は資産家の一人娘だった。
 土地を持っていてそれなりの家柄で学歴もあった。婿入りを望んでいた父親の眼鏡に適う相手が、ここへきて急浮上したらしい。
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