さよなら、片想い
「恋愛結婚そっちのけだね。彼女さんは知ってるの?」

 こくりと宏臣は頷く。
 知っているのか。親には逆らえない系か。
 ドラマではよくある話で目新しさは感じないまま、宏臣の話をただ聞いていた。

「結婚ってさー、家同士の結びつきでもあるんだぜ。条件が合わないとやっぱり大変だよなあ。俺、お義父さんに厳しく当たられてうまくやっていく自信ない」

 結婚式の内容でも揉めているという。
 仲間で集まったときの幸せそうな報告はどこに行ってしまったのか。あれは私にショックを与えた。宏臣にとっての明るい夢が確かにあった。

「昨日も帰り際に彼女のいないところで、やめるなら今のうちだと耳打ちされて泣きたくなったよ」

 今ついそこで義理の父に言われたかのように、宏臣はしょんぼりしている。これは何回戦っても負けそうだなと、アルコールを摂取していない冷静な頭で考える。
 と、左手にふいに握られた感触があってぎょっとした。
 宏臣が私の手の甲を掴んでいた。

「どうしよう……」

 宏臣が赤い目で訴えてきた。
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