さよなら、片想い
 私はこういう宏臣を知っていた。
 以前にも見たことがある、どん底の宏臣を懐かしく感じた。

 学生のときも大なり小なり、困難はあった。
 友達の異性トラブルに中途半端に絡んだとき、言葉足らずで疎遠になった交友関係、自分だけ就職が決まらなかったとき……。
 宏臣はどうにもならなくなってから私に言い漏らしてくる。
 そのほとんどが解決をみることはなかった。
 情けなくも愛しくて、寂しそうで、私は傷ついている宏臣から目が離せなくなる。
 そういう愛情を知っているから、もし岸さんが慰めの気持ちだけで私に寄り添っているのだとしても非難する気持ちにはなれないのだった。


「宏臣はどうしたいの」

 掴まれた左手をほどきながら、私は私の心の内を探った。

「反対されてもどうしても彼女がいいというのなら、婿入りするなり今の会社辞めてお義父さんの仕事を手伝うなり、いくらでもやりようがあると思う。駆け落ちしたっていい。私は薦めないけど」

 どうか宏臣が自分の意思で立ちまわれますように。宏臣の選ぶ道がどうあれ、過去や経験が困難に打ち勝つ力となりますように。

「覚悟を見せなよ、宏臣」
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