さよなら、片想い
 スマホに着信があったのは気づいていた。
 バス停まで送ってくれた宏臣と別れてから岸さんに連絡を入れた。

『今、どこにいる』

「外です。人と会っていて、これから帰るとこ」

『会って話したい。そっちに行くよ』

 この声が好きだ。とても好きだ。
 いつだって私の身を案じてくれる。
 私を励ますためだけのものだなんて、そんなことある?
 私を好いている声にしか聞こえないんだけど。

「もう遅いので明日でいいですか」

 声を聞いたら、今会ったら、一切合切放りだして甘えてしまいそうだった。

『いつからそんな優等生になったんだ。まだ二十一時だよ』

「地方の夜は早いんですよ。みんなシャッター下ろしてます」

『酔っぱらいに絡まれた君を助けに行った日も下りてたな。あれはもっと遅い時間だった。優等生なら寝ているくらいの』
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