さよなら、片想い
「私でいいの?」

『まどろっこしいな』

 急に低くなった声色にどきりと心臓が跳ねる。

『話がまるで進まない。名取さんと電話しているんだから君に決まってる』

 岸さんを怒らせたかもしれない、そう思ったら言いようのない怖さに襲われた。

「岸さんが今私に会いたいと思ってくれているように、私は今は顔を会わせたくないんです。言うつもりのないことを言ってあとで困るのは嫌だし、岸さんは甘えていいと言ってくれたけど私はちゃんとできない自分を嫌いになると思うから。私がそう思っているってこと、わかってほしいです」

『わかっているよ。君の意地なんだろ』

「そうです。あと、元好きだった人にさっきまで会ってたんですけど」

 これは終業後に岸さんに送ったメッセージでも伝えてあった。

「宏臣に発破かけるようなこと言っちゃったんですよ。人に言っといて自分はダメダメなのはどうかと思うから。今、頑張りたいって思っています。あの振袖にも前向きに着手できそう」

 そこまで言い切ると、岸さんはよかったねと言ってくれた。
 よかったと思ってくれているはずなのに、なぜだろう、私には寂しそうに聞こえた。
< 71 / 170 >

この作品をシェア

pagetop