さよなら、片想い
部長が隣の女性にビールを注いでもらっているうちに、岸さんはカメラを持ち直すと立ち去った。うまく逃げたね、と隣の人がささやき、私も頷いた。
部長の絡み酒は終わっていなかった。テーブルのステーキ肉を指差しながら、
「出張の新幹線に、岸のヤツ、こういう焼き肉の入った弁当を持ってきていたんだ」
と、妙な語りをはじめた。
「酒のつまみのようなものがきれいに詰まっていてな。まさか岸が料理するとも思えないから、女からかと聞いたら、否定しねえんだこれが!」
あ、この人が例の噂を流した張本人だ。
そう気づくと同時に、私には全体像が見えてきた。
「味見させてもらったんだが結構うまかった。彼女に泊まりの出張だと話していたんだろうなあ。普段はにこりともしないくせに。あいつも隅に置けないヤツだよ」
へええ、と周囲がざわついた。
「岸さんて今いくつだっけ」
「30とかそのくらい?」
「結婚近いのかな」
「想像できない」
お手洗いを装って、私はそっと場を離れた。
噂の原因を作ったのは私だった。
差し入れの料理を岸さんが夕方からの出張の日に渡していた。
岸さんも扱いに困っただろう。
あのときの微妙な表情も頷ける。
ごめん岸さん、と心の中で手を合わせる。
そして部長。
入っていたあれはステーキじゃなく、焼き肉でもなく、ローストビーフっていうんですよ……。
部長の絡み酒は終わっていなかった。テーブルのステーキ肉を指差しながら、
「出張の新幹線に、岸のヤツ、こういう焼き肉の入った弁当を持ってきていたんだ」
と、妙な語りをはじめた。
「酒のつまみのようなものがきれいに詰まっていてな。まさか岸が料理するとも思えないから、女からかと聞いたら、否定しねえんだこれが!」
あ、この人が例の噂を流した張本人だ。
そう気づくと同時に、私には全体像が見えてきた。
「味見させてもらったんだが結構うまかった。彼女に泊まりの出張だと話していたんだろうなあ。普段はにこりともしないくせに。あいつも隅に置けないヤツだよ」
へええ、と周囲がざわついた。
「岸さんて今いくつだっけ」
「30とかそのくらい?」
「結婚近いのかな」
「想像できない」
お手洗いを装って、私はそっと場を離れた。
噂の原因を作ったのは私だった。
差し入れの料理を岸さんが夕方からの出張の日に渡していた。
岸さんも扱いに困っただろう。
あのときの微妙な表情も頷ける。
ごめん岸さん、と心の中で手を合わせる。
そして部長。
入っていたあれはステーキじゃなく、焼き肉でもなく、ローストビーフっていうんですよ……。