1日だけの想い夢
「さぁ、早く行かないとその事も忘れてしまうよ。………お別れの時間だ」
「ミキ………待って!!」
「ありがとう、時雨。……薫といつまでも仲良くね」
ミキの体がまた靄で包まれる。そして、ゆっくりと姿が消えていった。それはミキが消えたのか、時雨がミキを見れなくなったのかはわからない。
それと当時に、時雨は記憶が曖昧になってくる。
どうして、ここにいる?
今誰と会っていた?
そう思って、からまたハッとする。
「くそっ!!」
時雨はまた走り出した。
ミキが言った言葉を書き残して置かなければいけない。25歳の誕生日にミキが会いに来る。それまでに恋人にならないと………どうなるんだ?
時雨の瞳から涙が出てくる。
けれど、何故泣いているのかわからなくなるが、途中から思い出す。
感情がぐじゃぐじゃになり、頭も混乱する。
「ミキミキミキっ……ごめん……!」
時雨は、そう呟き続けながら自宅まで走った。
そして、混乱する記憶のまま、コピー用紙にペンで文字を書こうとする。けれど、何て書けばいいのか。今、何があったのか思い出せず、時雨は頭を叩いた。
すると、どこからか楠の葉がちらりと落ちた。それを見て、ハッ!とした。一瞬だけ、ミキの事を、ミキとの約束を思い出したのだ。
「っっ!」
忘れる前にと、殴り書きで紙に『薫の25歳の誕生日 薫を守れ!』と書いた。
時雨はそれを書き終えた後、フラフラと体に力が入らなくなり、体をずるずると引きずりながらベットまで歩き、ドサッと布団に体を倒した。
「ミキ………ごめん、ごめんな………」
時雨は楠の葉を握りしめたまま、ぐっすりと眠った。
次に起きるとき、時雨はあの殴り書きのメモも、もっていた葉の事もすっかりと忘れてしまっていたのだった。