ねぇ・・君!
すき焼きで囲む家族のぬくもり
「英明くん、いっぱい飲もう。
おいっ、熱かんを早く用意しておけ」
清香の父は、英明が来る時になると
必ずお酒がすすむ。
それは、英明が唯一酒を
酌み交わすことができるからだろう。
「お父さん、お酒も
ほどほどにしてくださいね」
「お義母さん、心配しなくていいですよ。
僕は、お義父さんと
過ごせて楽しいのでから」
「そう?私たちに
気を遣わなくていいのよ。
あなたは、これから
清香と家族を持つんだから」
そんななかで、夕食になる
すき焼きができあがった。
「清香、あなたは座っていなさい。
すき焼きの土鍋は、お母さんが運ぶから」
「お母さん、いいの?」
「あなたは、おなかの赤ちゃんの
心配をしてちょうだい。
その身重の体で、重たい物を
持たせられません!」
出産が間近になった清香に、
細部のことに気を配ってくれる
清香の両親に英明は感謝していた。
そんな温かい家族の中で育った清香は、
幸せだったと信じてやまなかった。
清香は、結婚をする前に
働いていた茶屋町オフィスで
営業部の恭輔、沙織、孝之、香菜に
外から帰ってきた時に
必ず冷たい飲み物でねぎらっていた。
そんな清香と生涯をともに
生きていきたいと英明は願っていた。
やがて、二人の交際が始まり
婚姻届を出して夫婦になった。
そして、清香に子供ができたことは
英明はうれしかった。
「梅の木の精霊のお告げがあることは、
子供が産まれてくることだよ」
それは、清香の代わりに
英明の様子を見に来てくれた
英明の姉が言った言葉であった。
そのことで梅の木の精霊が、
清香を守ってくれたことに感謝していた。
「さあ、熱いうちに召し上がれ」
「ありがとうございます、お義母さん」
英明は、清香の母が持ってきた
すき焼きの土鍋をこたつの上に置いた。
この時、2月ではあるが寒い時である。
こうして、家族でこたつで
すき焼きを食べる温かいぬくもりが
英明はうれしかった。
「英明くん、いっぱい飲もう」
そう言って清香の父は、
英明と日本酒を飲んでいた。
「お父さんにとって、
英明さんはお酒が飲める息子なのね。
貴志は高校生で、お酒は飲めないから
英明さんが、お酒を酌み交わす
息子なのかもね」
お酒が飲める英明が、自分の父と
お酒を酌み交わしている。
日本酒の銘柄はわからない
清香であるが、英明は日本酒が
どこの銘柄かわかるくらいである。
これから、まだまだ寒い季節になり
鍋物が恋しい季節となる。
そのなかで、清香は
父とほろ酔いになっている
英明を見て、今夜は
ほろ酔いでいいと感じていた。
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