その青に溺れる
翌朝、目が覚めると男の姿はなく、テーブルの上にラップの掛かった炒飯が置かれ、その横には部屋の鍵と思わしき物があった。
それを眺めながら頭の中でジョニーとケニーが久しぶりに顔を出す。
《ジョニー、そいつの名前を早く教えてくれ》
《そう焦るなよケニー、まずはこいつを食べてみてくれ、どうだい?最高だろう?》
『味は悪くないよ、ジョニー……』と二人を追いやり、炒飯を食べ進める。
適当に切られた野菜とソーセージ、ご飯に絡んでない卵、見た目はお世辞にも良いとは言えないけれど、とても美味かった。
お腹を満たした自分は食器もそのままに携帯に手を掛け、久しぶりに音楽を掛け、画面に表示された歌詞の文字に指を落とす。
《月は闇を裂いて 背中に滑る
ゆっくり 開いて 朽ちる光
雨に挿す指先 "サヨナラ"を浮かべ 窓が霞んでゆく
堕ちた雫 救って 絡んで 鳴いて 伝えて この想いは
隠して 見ないで 早く行って その手を放して……》
幾度と無く目にした名前と歌詞に恋焦がれ、憧れを抱き、検索しても出てこない正体不明の人に思いを巡らせる。
それはとても至福の時だった。
顔も姿形も知らない、性別さえも知らないけれど、恐らくは男性の人、そんな人に自分はずっと恋をしている。
それは他人から見れば馬鹿馬鹿しい事かもしれない、けれどそれが自分の唯一の幸せの時。
ジャズに似た曲を流しながら食器を洗い終え、再び戻って曲が終わると同時に携帯が鳴る。呆然とした目線を戻し、その表示に息を呑んで身を固めた。