その青に溺れる
「遅い、30分過ぎてるぞ」
「すいません……」
なるべく右側は見ないようにシートベルトを手探りで掛けて締める。
様子を眺めていた男の手が伸びて来て
「乾いてない、風邪ひくぞ」
そう言いながら髪に指先が触れた瞬間、思わず手で避けてしまい、一気に重くなる雰囲気。
男は少し考えるように一瞬間を空けたあとで言う。
「なにその態度、遅刻して来たの誰だ」と飽くまでも冷静に話す声に
「すいません…………」と言うしか出来ない自分。
男は大きな溜息を吐きながら
「それ取って……眼鏡」と眉を潜めた。
その言葉の意味も男の顔が『早くしろよ』と表してるのも判っていた、けれど自分に取ってその行為は意味の無いものでしかなくて、
「嫌です」
そう断る以外に何があるのか、
「取れ」
食い下がったとして何になるのか、
「嫌です、貴方とだけは絶対に」
断ったとして、食い下がったとて、それは何の盾にもならなかった。