その青に溺れる
「判りました、こちらこそ結構です、二度と来ませんので」
女性はそう言って荷物を纏め、部屋を出ようとしたとき視線がぶつかり、去り際に言葉が投げられる。
「彼、男のほうが良いんだって」
静かにドアが閉まり、耳に残る言葉に頭の中で繰り返す。
その言葉に自分は身代わりだろうかと思い付き、誰とも判らない人物を描くことも出来ず、椅子に座って職務に就く。
彼の頭の先を眺めて考える。
誰かの代用でこんな事をして楽しいのか。
否、きっと楽しくない。
自分だったらやはり一番好きな人と一緒に居たい。
[好きな人]の文字に彼の顔が浮かんで慌てて消した。
そして急に[好き]と言う事が判らなくなる。
漫画で言えば、胸をときめかせたり、会うたびに鼓動が跳ねたり……
涼太の顔と言葉が浮かび、携帯を手にして工場のエントリーの結果を眺める。
一時審査が通ったようで面接の日程が記されていた。
ドアの開く音に携帯を仕舞い、目線を彼の頭に投げる。
すると甘い香りと共に彼女が入ってきて、そのまま彼女はソファーに座り徐に口を開く。
「ねぇ瑠貴、いつになったらこの子辞めるの?」
「もういいだろ、その話は」
相変わらず彼は此方を向くことなく作業を始め、煙草を燻らせながら話す。
「だってさ、必要なくない?ただ座らせとくなら誰でもいいじゃん」