その青に溺れる

『そんな人取る訳ない、寧ろどうぞご自由にと言いたいくらい、
それに心配しなくても近々辞めるし、後は二人で好きにすればいい』

「すいません・・・・・・気分悪いので帰っていいですか・・・・・・」

この険悪な雰囲気から一刻も早く出たくて言葉が滑った。

彼の指が止まり、緩やかな煙が上がっていく。
暫くの静寂を迎えたあと、彼は口を開いた。


「無理させて悪かった、帰っていいぞ」

「失礼します・・・・・・」


彼がどの件を指して謝るのか直ぐに判った。
そんな気遣いなど要らないのに、どうしてそういう事だけは言えるのか、
普段聞いても何も答えてくれやしないのに。

外に出てタクシーを拾って乗り込み、彼の家へと帰る。
思い返せば幼馴染の稔から始まったこの仕事、文句のひとつでも言おうと携帯を手に履歴を辿って掛けた。

けれど2回目のコールでセンターに繋がって切った。
直ぐに折り返しが掛かって来て口にしたのは変な質問。

「ねぇ、男って女なら誰でもいいの?」

「は?なんだよいきなり」

電話の向こう側から雑踏の音が聞こえる。

「聞きたいの、答えて・・・・・・」
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