キス時々恋心
「突然ごめんなさい。こういうつもりじゃ無かったんだけど……」
彼は今までの非礼を心から詫びた。
顔を上げた表情はなんともバツが悪そう。
派遣をお願いしていた相手とは全然違うし、夜の海辺に突然連れて来られて、初音は言ってやりたい事が山ほど喉元まで出かかっていた。
しかし、ご主人様に叱られた子犬のような姿を目の前で見せられてはそれもできない。
感情のまま言ってしまったら、どっちが悪者か分からない。
「……もういいよ。私も年甲斐もなく変な声上げちゃったし」
駅前ロータリーでの行動を思い出すと、顔から火が出そうなほど恥ずかしさが初音を襲う。
そんな気持ちをあまり表情に出さないようクールに振る舞ってみせた。
「それじゃ、仲直りしましょう」
彼はそう言って右手を差し出す。
初音は求められた握手にポカンとした表情を浮かべた。
こんな正統派な仲直りなんて子どもの頃にして以来だ。
今更照れくさくて、可笑しくて、初音は思わずプッと吹き出してしまう。