キス時々恋心
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子どもたちと一緒に花火を始めて三十分ほどが経過する。
その間、父親はコンクリートの段差に腰を下ろし、愛犬と共に花火を堪能する我が子を見守った。
雪次郎は、そんな彼の横でスケッチブックを広げてずっと絵を描いていた。
鉛筆を使った黒白のスケッチ。
白い紙に描かれていたのは、浜辺で花火を楽しむ初音と子どもたちの姿。
目に映るものを用紙に全て描きこんで、雪次郎は満足そうにスケッチブックを閉じた。
そして、あの子どもたちも父親とともに海浜公園を後にした。
再び、初音と雪次郎は二人きりになった。
暗い夜空に太陽の光でも射しこんできたかのように明るかった子どもたちはもういない。
「久しぶりの花火、けっこう楽しいね」
「そう。それは良かった」
当たり障りのない会話。
初音は無造作に置かれたままのスケッチブックに目をやった。
「さっき絵を描いてたんでしょ?見せてくれない?」
「たいした事ないよ。ただのスケッチだし……」
「たいした事なくたって構わないわ。あなたがどんな絵を描くのか見たいの。ねぇ、いいでしょ?」
「まぁ、いいけど……」
雪次郎はそう言って、スケッチブックを広げた。