キス時々恋心
初音の目に飛び込んできたのは、“ただのスケッチ”と簡単に言うにはあまりに躍動感のある絵だった。
三人の人間が用紙の中で今にも動き出しそうに見える。
「……凄い」
初音は心からの感想を口にした。
この絵を見れば、たいした事ないなんて誰も思うはずがない。そんな出来映えだった。
「絵……勉強してるの?」
「花菱に通ってる」
「花菱美大かぁ……。将来、画家になるの?」
初音は立て続けに質問を投げかける。
彼の絵を見て、なんだか近況が知りたくなった。それにこれからの事も――…
雪次郎は少し悩んだ素振りを見せた後「そんなわけないじゃん」と笑った。
正直、少し残念な気持ちを持ったが、彼の人生だからとこれ以上あれこれ言うのはやめにした。
初音の心の中で溢れそうになったお節介を吹き飛ばすような冷たい風が頬を撫でる。
「……くしゅん」
小さなくしゃみを出して、初音の肩が一瞬震えた。
「風邪引くから……」
雪次郎は自分が着ていた上着をそっと彼女の肩にかける。
人の温もりが初音の身体を包み込んだ。