キス時々恋心
「残るは線香花火だな。初音さん、線香花火をどっちが長持ちさせられるか競争しようよ」
雪次郎の無邪気な提案に、初音は笑いながら「そんな子どもみたいな……」と受け流す。
「じゃあ、大人の遊び。長い時間、火を保っていられた方の言うことを一つだけ聞くってどう?」
「えー……嫌だよ」
「負けるのが怖いんだ?」
雪次郎が余裕綽々に挑発してくる。
年下の彼にそんな風に言われて、初音は少しだけ腹立たしさを覚えた。
子どものくせに生意気な……!
彼の挑発にまんまと乗っかって「受けてたつわよ!」と線香花火を一本手に持った。
二人同時に火を付けて、運命の勝負は開始される。
じわじわと火薬に火が広がっていくのをじーっと眺めた。
揺らさないように、火の玉を落とさないようにできるだけ手首を固定して動かないようにする。
「ねぇ、おばさんとおじさんは元気?」
何気ない問いだった。
久しぶりに再会した知り合いには大概の人がこの質問をするだろう。
知り合いを目の前に“こんにちは”と挨拶を交わすくらいベーシックな内容だ。