キス時々恋心

「初音さんの負けだよ。俺のお願い聞いてよね」

偶然とは言え、あんな話を聞いてしまった後だから彼のお願いならば何でも“いいよ”って受け入れてしまいそう。

ズルイ……

そう思いながらも、初音は「お願いって何?」と雪次郎の意向を問うことにする。
負けは負けだから仕方ない。

「そうだなぁ……。じゃあ、キスして?」
「キス!?」
「そう。キス」

雪次郎は再度、要求を口にした。

“キス”ってあの……主に恋人同士がしているあの“キス”だよね?

初音は自らの心の内で“キス”について今一度整理した。

「私たち恋人……」

初音の言葉にかぶせて、雪次郎は「今は俺が初音さんの彼氏でしょ?」と言う。

“私たちは恋人じゃない”

そう言われる事が彼には分かっていたみたいだった。
金銭が発生する疑似恋愛。
それでも、今現在の初音の恋人は目の前にいる彼なのだと思い知らされた。

「……分かったわよ。目を瞑って」
「はい」

雪次郎は初音に促されるままに瞼を閉じる。
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