キス時々恋心
「ユ、ユキ……!?」
ついさっきまで脳内の大半を占めていた相手が突然目の前に現れて、初音は驚きを隠せず素っ頓狂な声を上げた。
「初音さん、こんにちは」
そんな彼女とは裏腹に、雪次郎は手を振りながら涼しい笑顔を見せて挨拶する。
「何でいるのよ……?」
「俺だって銀行に用があるときだってあるよ」
「そういう事聞いてるんじゃなくて……」
「通帳がいっぱいになったから新しいの貰おうと思って」
そう言って、雪次郎は鞄の中から一冊の通帳を取りだした。
「そんなの入り口の機械でいくらでも出来るじゃない」
「そうしようと思ったんだけど、初音さんの事が見えたからさ」
「んなっ……!?」
聞いているこっちが恥ずかしくなるようなそんな台詞を彼はサラッと言ってしまう。
イケメンが言えば破壊力はさらに増していく。
二人のそのようなやりとりを後ろの席で見ていた初音の上司が「ゴホン!」と強めの咳払いをする。
上司の声でようやく我に返ることができた初音。
「あちらのお席で少々お待ちください」
初音は精一杯の平常心を保ちながら、雪次郎の通帳切り替えを行った。